連載★第2回目!DANSTREETオリジナルダンス小説「ブレイキンガール」〜SCENE 2:キツネ男とネコ娘

2017.04.10 OTHERS

前回のつづき)

SCENE 2〜キツネ男とネコ娘

まだ肌寒さの残る4月の入学式の日、桜まじりの風がカナの首元をスースーとくすぐる。

昨日、髪を切った。バッサリと。

高校入学式の前日、カナは背中まであった髪を首筋が見えるぐらいまでショートにした。

理由はただひとつ。ダンスをやるためだ。

「あ、おはよー!」

「久しぶり〜」

おそらく中学の同級生と思われるグループ同士で数人の群れを作りながら、新入生たちは校門へ向かう坂道を嬉々と駆け上がっていく。

電車を1時間乗り継ぎ、離れた学区から通学してくるカナには同級生はひとりもいない。

でも別に気にならないし、寂しいとも思わない。

友達なんてそのうちできるし、ダンスのことしか見えてないからだ。

この学校でダンスを始める。そのことだけに集中すれば、高校生活の無駄な不安も、淡い期待も、女子たちとの煩わしい人間関係も、男子との面倒くさい色恋沙汰も、試験勉強やら進路のプレッシャーなどなども、きっと華麗にスルーできるに違いないからだ。

そんな決意を胸に、カナは「都立第三高等学校」の門をくぐった。

体育館で一通りの式典が終わり、クラス分けされた教室に移動する。

カナは1年3組で、席は五十音順で窓際の前から5番目。南向きの窓からポカポカした日差しが心地よい。

なんだかんだ気を張って緊張していたせいか、ぼんやりと眠気に誘われ始めたカナの目に黒板の目が飛び込んできた。

磯崎文彦

「ハイ、よろしく〜、私が今日から担任のイソザキです。担当は現代国語。……ま、高校はいろいろあると思いますが、がんばりすぎずに。やる気のある人は、がんばりましょうか」

もう、これ以上、やる気を起こさせない担任の新任挨拶ってあるだろうか。

その言葉ももちろんだが、ボソボソとつぶやく声のトーンと眠そうな細い眼。面長の顔。薄い唇。おそらく整髪料を使ってないボサボサの髪。

教師やる気あるのかな? これから1年、この顔と声と付き合っていくわけか。なんかキツネみたい。担任はキツネ男。

黒のスーツは普通より細めで、なんだか普通より裾が短い。白い靴下が見える、というか見せている着こなしなんだろうか。おそらくまだ三十代前半で、体型は痩せていて手足も長いほうだからこのスタイルが似合うんだろう。おそらく、本人もそれを意識しているに違いない。まぁ、私には関係ないけど……。

「じゃあ、とりあえずあと30分の間はホームルームということなんですけど、学校の詳しいことはパンフレットや今日配ったプリントを家で見てもらうとして。俺からも特に今は話はないから……、えっと、皆さんに自己紹介してもらおうかな」

行き当たりばったりの進行に、急にざわつく教室内。

こういうのって普通、明日、2日目とかじゃない? よくわかんないけど。

「じゃあ、順番に、出身校と、フルネームと……あと、なんか、高校でやりたいこととかも」

え、フルネームって、そうだ!やばい!私の名前!

私のフルネーム、絶対笑われるし。入学式からそんな感じのキャラになるのイヤだ!

去年の暮れに両親が離婚して、母親の旧姓になり、突然訪れてしまった私の改名。15歳で思ってもみなかった新しいフルネーム。

よく考えればどうってことはないんだけど、人一倍自意識が強いカナにとって、人前で初めて言うにはハードル高すぎる意味合いのフルネームなのだ。

「はい、じゃあ最初は、アイザワユミさんから」

ってか、最初に担任がフルネーム言っちゃってるし。どこまでぼーっとしてるんだろ、この人。

「はい。アイザワユミです。○×中学から来ました。えー、高校では中学からやっていた吹奏楽部に入りたいです」

メガネ姿の真面目そうな女子が自己紹介する。

楽器はフルートとかかな。そう言えば、吹奏楽って漫画とかで流行ってるから、いっぱいいるだろうな。

「はい、つぎ〜」

日焼けした、いかにもスポーツ少女が壇上に立つ。

「イシダアユカです。○×中学から来ました。高校に入ったらテニスやるつもりです」

あれ、入りたい部活を言う流れ? じゃぁ私も……。それより、フルネーム、どうしよう!

言わない手もアリなのかな。名前だけとか。でも、どうせバレるし……言わないことで意識していると思われるのもシャクだし。影で笑われるよりも、いっそ最初にウケてもらったほうが……。

(トントン)

いろいろ頭を悩ませていると、不意に背中を突つかれた。

振り向くと、ビー玉のような青い瞳に吸い寄せられそうになる。

そこにはネコ娘が、顔が完全にネコ科の女の子がこちらを向いている。

「あの、呼ばれてるよ……」

ネコ娘が小声でささやき、ハッとする。

「ハイ、次の人。……ん?パスかな?」

キツネ男がゆるい目でこちらを見ている。

「あっ、ハイ! ハイ!やります!ワタシの紹介!」

とガタンと音を立てて、慌てて椅子か立ち上がると、教室からは「アハハハ!」とこの日初めての全員一致の笑いが教室から起こった。

う〜。こんなはずじゃなかったのに……。

赤面した顔を見られないように下を向いて教壇の前まで歩き、顔をあげて初めてこのクラスの面々を見渡す。

さっきの吹奏楽女子と、ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべたヤンキー風男子の顔をチェックした。

「えー、名前がカナ。旧姓がヤマシタ。で、今の名字の方がカリタ……です!」

しばし沈黙……。

一番前列の厚底メガネをかけた天パーのオタク風男子がつぶやく。

「カリタカナ……。借りた、かな?」

「借りてないし。へへへ」と、ヤンキー男子がすかさず被せた。

「フフフフ……」

「ハハハ」

沈んだ教室内に寂しげに響く数人の乾いた失笑。

「クククク……」

なんとキツネ男も拳を口に当てて笑いをこらえている。

カナは顔中に血が巡るのを感じた。もう、どうせなら思い切り笑ってほしい。ドカンと爆笑してほしい。なんで、自己紹介するたびに軽くスベる名前になっちゃったんだろ、ワタシ。

「えっと、ダンス部に入ります! だから昨日、髪も切りました。以上!」

カーッと頭に血が上り、先ほどとは違う種いの赤面で、スタスタと自分の席に戻るカナ。ドカッと自分の席に腕組みで座る。

もうイヤだ! こんなクラス、こんな学校、もう来ない! 全員嫌い!

下を向いて涙をこらえると、

(トントン)

あれ、さっきと同じ。背中を突つかれた。

振り向くと、ネコ娘が青い瞳の焦点を合わせて小声でささやく。

「あのさ、髪……失敗してるよ。ダンスやるなら」

……えっ?

つづく

posted by DANSTREET



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